シトー派トラピスト会の修道院で醸造されるビールのことを「トラピストビール」と呼びます。2002年2月現在、トラピストビールを醸造する修道院は全世界で6箇所あり、そのうち6箇所全てがベルギーにあります。若干古い資料では、ベルギーに5つ、オランダに1つとなっているものもありますが、オランダのトラピストビールであったLa Trappe (Schaapskooi)は、修道院がビール醸造に関係を持たなくなったため、トラピストビールではなくなり、ベルギーの Achel の修道院によって造られるビールが新たにトラピストビールとなっています。トラピストビールのうちで、最も個性的なトラピストビールはOrvalである、と言っても誰も異論を挟まないことでしょう。 修道院はベルギーの南東のLuxemburg州(リュクサンブール州)のフランスとの国境近くの町Florenvilleの南方にあります。この地方は森が多く、同じベルギーでも平野が果てしなく続く北部とはまったく異なる光景です。Orval修道院は、この地方の森に囲まれた谷にひっそりとたたずんでいます。ただし、谷と言っても日本の谷のように険しいものではなく、どちらかと言うと「窪地」といったところです。 谷と言えば、Orvalという名称は「黄金の谷」という意味に由来しています。この修道院には金の指輪の伝説があります。この金の指輪にちなむ泉は「マチルダの泉」と呼ばれており、Orvalのビールはこの泉から湧き出る水を用いています。
修道院の周囲の風景
マチルダの泉修道院の歴史は12世紀(※)に遡ります。1132年にシトー派修道士に設立されましたが、17世紀のフランス革命中に破壊されました。1926年にフランスのLa Trappe修道院の修道士らにより再建され、1931年にビールの醸造が開始されています。現在醸造されているビールで一般に流通しているものはただ1種類 “Orval” だけです。しかし、修道院の内部消費用に通称 “緑Orval” と呼ばれる若干アルコール度数が低いものも造られており、これは修道院入り口から200メートルほど離れたカフェ“A l'Ange Gardien”にて飲むことができます。
(※)11世紀としている文献もあります。
緑Orval
緑Orvalが飲める“A l'Ange Gardien”さて、醸造所の様子を見てみましょう。ビールの原料はモルト(ピルスナーモルト75%、クリスタルモルト25%)、ユーゴスラビアやドイツ産のホップ、そして前述の通りマチルダの泉からくみ上げられた水です。まず、モルトをミルで粉砕し、煮込んで糖分を抽出します。この作業は毎朝5時に始められます。その後温度を下げ、62℃〜70℃のあたりで1時間かけて1回目のフィルタリングを行います。この時約4000リットルの麦汁が得られます。次いで、7000リットルのお湯を加え、さらに2時間フィルタリングを行い、合計11000リットルの麦汁が得られます。
モルトを粉砕するミル
(屋根裏部屋)
フィルタリングの後ここから麦汁が出てくる次いで、麦汁を煮沸します。次いで、ホップとキャンディーシュガーが加えられます。ホップはペレットが用いられ、煮沸が終わる1時間半前に投入されます。キャンディーシュガーは終了直前に入れられます。煮沸終了時に麦汁の比重をチェックします。
なお、マッシングと煮沸は同一の釜を用いて行います。写真をご覧になればわかるように、銅製のものです。
煮沸の作業の様子
(右上の十字架に注目)
比重計測のようす麦汁は冷却された後、発酵タンクに入れられ、そこで酵母が加えられ、第1回目の発酵が行われて麦汁がビールに変化します。この発酵は14℃〜20℃で5〜6日間かけて行われます。発酵タンクは、蓋の無い開放型のものと近代的な円錐形(を逆さにしたもの)で密閉されたもののどちらかが用いられます。今飲んでいるOrvalがどちらのタンクで発酵されたかを想像しながら飲むのも楽しいのではないでしょうか。なお、どちらの発酵タンクを用いても品質やテイストは同一になるように努力されているとのことです。特に開放型のものは、厳重に管理された密室に置かれており、関係者以外はテレビカメラを通してでないと見ることができません。しかし、開放型のタンクはEUにより規制される可能性があるとのことで、今後どうなるかはわかりません。
開放型タンクによる発酵
(TVを通してしか見ることができない)
密閉型のタンクによる発酵1回目の発酵が終了すると、ビールは15℃に温度が下げられ、円柱を横にした形のタンクに入れられます。1つのタンクの容量は従来のものは約10000リットルですが、新しいタンクは20000リットルになります。ここで、新たに酵母が加えられ、2回目の発酵が行われます。発酵の期間は約3週間です。Orvalの製法で注目すべき点の1つは、この2回目の発酵時にホップを新たに生で(ペレットでなく花のまま)加える「ドライホッピング」という手法です。これがOrvalの卓越したアロマにつながっていると言えるでしょう。ホップは後で取り出しやすいように網の袋に詰められて入れられます。タンク1つにつき合計32kg投入されます。
ドライホッピング終了後のホップ
従来の二次発酵用タンク
新しい二次発酵用タンク2回目の発酵が終わると、ビールは瓶に詰められ、ここでさらに酵母とキャンディーシュガーが加えられます。瓶の中に入れられたビールは、14℃に保たれた部屋の中で5〜6週間熟成されます。新たに加えられた酵母と糖分のはたらきにより、瓶の中で3度目の発酵が行われるわけです。
ボトリングプラント熟成が終わったビールは日本を含む全世界に出荷され、全世界で愛好されています。
なお、通常は醸造所の見学はできません。(古い修道院の廃墟部分の見学のみ可能です。) 修道院のショップでは、ビールやグッヅの他、Orvalのチーズも売られていますので要チェックです。
案内して下さったAugustaさんと皆さんからの情報
Abbaye Notre-Dame d'Orval 6823 Villers-devant-Orval TEL: +32 61 311261 FAX: +32 61 312927 |