ベルギービールの基礎

最終更新: 2002年2月12日

このページでは、ベルギービールの製法、代表的なタイプ、 ベルギービールに関連する用語などを説明します。筆者自身まだまだ初心者で分からないことが多いので、 もし誤り等がございましたらぜひお知らせ下さい。さらに、日本国内でベルギービールが飲める店・買える店なども紹介します。

ベルギーでのビールの製法

  • ビールの製法の基本型
  • ビールの製法のバリエーション

ベルギービールの代表的な種類

  • エール
  • ランビック
  • ラガー

ベルギーでのビールの製法

ビールの製法の基本型

ビールの製法のバリエーション

使われる原材料の違い

使われる原材料の種類によってビールの香りと味わいは当然 異なってきます。 例えば、 大麦だけではなく、小麦も醸造に必要な糖分の供給源となり得ます。 小麦を使ったビールは「小麦ビール」「白ビール」などと呼ばれます。 また、オート麦を用いる場合もあります。 さらに、一次発酵後に、さくらんぼなどの果物、 砂糖蜂蜜などを加え、再発酵を起こさせることもあります。 自然発酵により作られたビールにさくらんぼやその果汁を加えて 再発酵を起こさせたものは「クリーク」と呼ばれます。 出来上がったビールに砂糖を加えて提供されることさえあります。

麦芽による違い

麦芽は使われる大麦自体の種類、乾燥させるときの温度、 湿度によって麦芽の色、香り、風味は変わってきます。 通常、色の違う(培煎の度合いが違う)麦芽を数種類組み合わせるそうです。 なお、小麦を使う場合は発芽させることもありますが、 発芽させないで使うことも多いそうです。

ホップ

ホップは煮沸してエキスを取り出す方法の他、 冷却した麦汁に乾燥したホップを袋の中に入れてそのまま漬け込み 抽出する方法があります。これをドライホッピング (英:Dry hopping)と言います。 苦みが引き立つ他、ホップに含まれるビタミンを破壊せずに ビールに取り出すことができるという利点があるそうです。

発酵の種類

酵母の種類と温度によって、発酵のプロセスは大きく2つに 分かれます。

低温(約5℃)で長時間ゆっくりと発酵させるものが 下面発酵 (英:Bottom-fermentation、蘭:Lage Gisting)で、発酵末期に酵母が下に沈んでくるところから この名があります。下面発酵用の酵母を使い、 長期間ゆっくりと貯蔵して作ります。 代表的なタイプは、世界中で最もつくられているピルスナー。 下面発酵で作られるビールの総称が「ラガー(lager)」です。 透き通ったさわやかな喉越しが特徴です。

高温(約15℃〜25℃)で発酵させるものを上面発酵 (英:Top-fermentation、蘭:Hoge Gisting、仏:Haute Fermentation)と 言います。上面発酵用の酵母を用います。 発酵中に酵母が上面に浮かび上がってくることからこの名前があります。 上面発酵で作られるビールの総称を「エール(ale)」と言います。 甘味があり、フルーティで香り豊かな味わいです。 ベルギーのバラエティに富むビールは多くの場合、 こちらに属します。

その他、上面発酵の一種でベルギー独特なものとして、 自然発酵 (蘭:Spontane gisting、仏: De Fermentation Spontane、 英:Spontaneous fermentation)というものがあります。 これは麦汁を浅い容器で空気にさらすことで 野生酵母を取り入れ、 その野生酵母に発酵を起こさせるものです。 野生酵母はその醸造所に住み着いている天然の酵母で、 醸造所の「指紋」でもあります。

ベルギー国内でも、生産量で見ると下面発酵の、 しかもピルスナーが生産量の70%を占めているのが現状です。 しかし逆に言えば、上面発酵も生産量の少なからぬ割合を占めていて、 いまだ健在であることがわかります。

濾過

濾過しないこともあります。 この場合、ビールの中に酵母が生きているため、 瓶や樽に詰められた後でも発酵が進むことになります。 濾過しないビールは、 ビールの色は不透明で、 おりが沈殿していることもあります。

熟成

樽や瓶の中で、短い場合は一週間、長い場合は3年も醸造所内で 熟成させる場合もあります。 西フランデレン(フランドル)州では酸味の効いた赤いビールが、 隣の東フランデレン州では同様に酸味が効いた茶色のビールが有名です。 この酸味はオークの樽の中で長時間熟成させることにより 出てくる酸味です。 たいていの場合、熟成により味はまろやかになりますが、 この種のビールでは、 熟成させることにより酸味がより増します。 瓶に詰められたビールを十年以上も地下室で貯蔵して 出されるビールもごくまれにあります。

再発酵

一次発酵が終わったビールにまだ残っている糖分や、 あらたに砂糖、果物や果汁などを加え、その糖分を材料として さらに発酵を起こさせることがあります。 上述のようにさくらんぼやその果汁を加えて 再発酵させたランビックを「クリーク」と称します。

瓶の中で再発酵を起こさせることを「瓶内再発酵」 (英:Bottle refermentation、蘭:Hergist op de fles、 仏:Refermentee en bouteille)と呼びます。 酵母が瓶の中に酵母をほんのわずかに加える場合もあります。 時には砂糖をわずかに加え、発酵に必要な糖分の足しにします。

ベルギービールの代表的な種類

ベルギービールの種類上述のようにベルギーではビールの製法や材料は非常にバラエティー豊かで、極論すればビールの種類はビールの数だけ存在する、ということになります。 しかしながら、 何百種類もあるビールをクラスタリングし、 指を使って数えられる程度のグループに分類しようという 試みはいろいろな人によって行われています。 次にあげるものは色々な本や聞いた話を参考に、 筆者なりにベルギービールの分類法と代表的なタイプを述べたものです。 当然、名称や分類の方法は世の中の著名なライターが書いたものと 異なっている部分もありますが、その点はご容赦ください。

通説に従い、まず、ベルギービールを発酵の形態で大きく3種類に分類することにします。

1つ目がエール(Ale: 英)です。これは上面発酵ビールの総称です。エールのサブカテゴリとして、トラピストビール、修道院ビール、白ビール(小麦ビール)、ゴールデンエールなどがあります。

2番目はランビック(Lambic, Lambik)です。これは自然発酵ビールをまとめて呼ぶ言葉です。ただし、ランビックと言う言葉はもう少し狭く限定された意味で用いられる場合もあるので注意が必要です。ランビックに含まれるものには、グーズ、クリーク、ファロ、白ランビック、ランビック・ドゥー(ソフトランビック)などがあります。

最後はラガー(Lager: 英)です。これは下面発酵ビールの総称で、世界中で愛飲されているピルスナービールがこのタイプの代表です。

以下、詳しくみてゆくことにします。

エール、Ale(英)

上面発酵で作られたビールの総称。 甘くフルーティーな風味が共通しているが、 製法の細かな違いは千差万別である。 ベルギー国内で使われる場合、狭義には、 淡色〜茶褐色の上面発酵ビールのみを指すこともある。 また、ベルギービールに関係しない文脈でエールと言った場合、 英国で作られている淡色〜褐色の上面発酵ビールだけを指す場合もある。

トラピストビール、Trappist beer(英)

トラピスト派の修道院で作られているビール。 現在、全世界で シメイ(Chimay), オルヴァル(Orval), ロシュフォール(Rochefort), ウェストマレ(Westmalle), ウェストフレーテレン(Westvleteren), ラ・トラップ(La Trappe) の6種類しかない。 そのうち、La Trappe はオランダで作られているが(瓶詰めをAntwerpenで行っている場合もある)、 残りの5つはベルギー国内にある。 「修道院ビール」と混同されて用いられることもあるが、 正しくは、上記の6つのビールのみがトラピストビールを名乗ることができる。

修道院ビール、アベイビール、Abbey beer(英), Abdijbier(蘭)

修道院風の名前を付けられた、あるいは修道院から名前のライセンスを 受けて、世俗の醸造所で作られているビール。 つまり、修道院風の名前が付いているのに、 修道院以外で作られているものを修道院ビールと呼ぶ。 一般に、アルコール濃度が高く、茶褐色で濃厚な味わいを 持つものが多い。 現在、ベルギー国内では「トラピストビール」と「修道院ビール」 の二つを明確に区別するようになってきている。 広義の「修道院ビール」はトラピストビールを含むが、 修道院ビール一般を「トラピストビール」と呼んではならない

ここでいう修道院ビールのことをを「修道院タイプ」と呼び、トラピストビールを「修道院ビール」と呼んで区別する人もいる。

白ビール、ホワイトビール、 White Beer(英)、Witbier(蘭)、Biere Blanche(仏)

大麦の麦芽だけでなく小麦も使用したビール。 小麦は発芽させて使う場合もそうでない場合もある。 色は薄い黄色。 濾過しない場合は白く濁り、まさに白ビールとなる。 柑橘系のさわやかな風味が特徴。 小麦ビールという言い方をする場合もある。 Tarwebierとは小麦ビールという意味のオランダ語。 英語では Wheat beer となり、 White Beer と紛らわしい。 多くの場合、コリアンダーや乾燥したオレンジの皮などが香りを付けるために用いられる。ちなみに、ランビックにも小麦は用いられるが、 ランビックのことを普通、小麦ビール、白ビールとは呼ばない。

ゴールデンエール、ストロングエール、 Golden Ale(英), Strong Ale(英)

モールトハット(Moortgat)社のデュヴェル(Duvel)に代表される、 淡色でアルコールの度数が 比較的高く、香り高いビールをこのように呼ばれることがある。 他にハプキン(Hapkin)、ユダス(Judas)、ルシフェル(Lucifer)などもこれに含まれる。

オールドレッド、フランダースレッドビール、 Old Red, Flemish Red (以上英)、Oud Rood (蘭)

西フランデレン(フランダース、フランドル)州 (Westvlaanderen)でつくられている赤茶色の 酸味が際立ったビールの総称。 ルースラール(Roeselare) のローデンバッハ(Rodenbach) に代表される。 オークの樽で熟成させることにより、 独特の酸味と風味がうまれる。

このビールにさくらんぼやそのエッセンスを混ぜて再発酵させる場合もある。

オールドブラウン、フランダースブラウンビール Old Brown, Flemish Brown(以上英), Oud Bruin(蘭)

主に東フランデレン州(Oost-Vlaanderen)で作られている、 茶色で深い酸味に特徴があるビールの総称。 オールドレッドビールと同様、オークの樽で熟成させることにより 酸味が生まれる。 代表格はオウデナールデ(Oudenaarde)でつくられているもの。e.g. Liefmans

オールドレッドと同様、さくらんぼやその果汁を混ぜて再発酵させて出荷するビールもある。

セゾン、Saison(仏)

春の間に作られて貯蔵され、夏に出荷されるビール。 ワロン地方(ベルギーの南半分)で作られている。 夏の高い温度(といってもそんなに暑くはない)でも 保存できるように、ホップを多めに使い、 糖分はほとんどアルコールに変化させる。 辛口の締まった味わいのものが多い。 代表的なものはデュポン(Dupont) 社が作っているもの。

ランビック、Lambic (英・蘭・仏)

自然発酵によって作られるビール。 煮沸後の麦汁を外気にさらし、そこに含まれる野生酵母により 発酵が起こる。人工的に酵母を加えることはしない。 大麦の麦芽だけでなく、発芽させていない小麦も3割ほど用いる。 ホップは古い物が用いられる。これは苦みや香りのためではなく、 保存料として使うのが目的だからである。 広義には自然発酵で作られるビールの総称。 狭義には自然発酵により作られたビールで再発酵をさせていないものだけを示す場合もある。

ホワイトランビック、White Lambic(英)、Lambic Wit(蘭)、Lambic Blanche(仏)

ティメルマンス(Timmermans)醸造所がはじめた、ランビックとホワイトビールを ブレンドしたビール。 ランビックの甘酸っぱさとホワイトビールのフルーティな 風味が同時に楽しめる。

ランビック・ドゥー、ソフトランビック、Soft Lambic(英)、 Lambic Doux(仏)


Lambic Doux
(ブリュッセルのカフェ La Becasse にて)

ランビックを濾過して酵母を除去した後、黒砂糖を混ぜ、 甘く飲みやすく仕上げたビール。 甘酸っぱくてりんご酒かジュースのような味わい。黒砂糖のためか、色は茶色である。

ファロ、Faro

ランビックを濾過せずに砂糖を混ぜ、 樽の中で再発酵させたもの。

グーズ、Gueuze, Geuze

自然発酵によって作られたランビックの古酒(1〜2年)を新酒とブレンドし、 再度発酵させたもの。新酒に含まれる糖分によって2度目の発酵が 引き起こされる。きわだった酸味が特徴。なお、ここでは便宜上「グーズ」とカナ表記したが、現地音はあえてカナ表記するなら「ヒューズ」が近い。

クリーク、チェリービール、Kriek

ランビックやグーズにさくらんぼ、あるいはその果汁を混ぜ、 再度発酵させたもの。 単に果汁をブレンドしただけのものはクリークではない。 再度発酵させることが重要。 酸味があるが、さくらんぼの香りが漂い、 飲みやすいビール。 ランビックにさくらんぼを混ぜたか、グーズに混ぜたかを 区別しなければならない、と厳しいことを言う人もいる。 さくらんぼではなく、ラズベリーかラズベリーの果汁を混ぜ 発酵させたものをフランボワーズ(Framboise)と呼ぶ。 さらに、桃やいちごを混ぜ、発酵させて作るビールもある。

なお、ランビックやグーズでなく、上述のオールドレッド、オールドブラウンにさくらんぼを混ぜて再発酵させたものも“Kriek”と称している場合があるので注意が必要である。

ラガー、Lager(英)

下面発酵で作られたビールの総称。 下面発酵では低温で長期間貯蔵してビールを作るが、 この貯蔵するという言葉のドイツ語から「ラガー」という言葉が 生まれたとされている。 日本国内で、ラガーとは何を指すかはご存知の通りだが、本来の意味からはずれている。

ピルスナー、Pilsner、Pils

世界でもっとも生産量が多く、もっとも愛飲されているビール。 チェコ共和国のプルゼニュ(ピルセン)地方で作られ、世界に広まっていった。 下面発酵タイプで、すっきりとしたさわやかな喉ごしが特徴なのは ご存知の通り。 ベルギー国内でも総生産量の70%がこのタイプ。Pilsとも略される。

ちなみに、ベルギーではじめて作られたピルスナーは、1927年にAlken醸造所(当時)が出した“Cristal”というビール。

ドルトムンダー、Dortmunder、Dort

ドイツのドルトムント地方ではじまったビール。 下面発酵タイプの一種で、ピルスナーより若干アルコール濃度が高く、辛口。 ベルギー国内のオランダ語圏では Dort と略して表記されていることが多い。ベルギー国内ではこのタイプのビールは1960年代後半に非常に人気があったが、1970年代より次第に人々の興味は別のところに移っていき、いまでは Dort と称するビールを作っているところは数少ない。

その他のラガー

その他に、量も数も多くはないが、ミュンヒナー (Munchener) やウィーナー (Wiener) と呼ばれるタイプのラガーも製造されている。

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